本編
人は皆、肉体という仮の宿に魂を捩じ込んで呼吸する生命です。 肉体を横たえる場所が家なのか、魂の置き場所が家なのか。 様々考え方はありますが、結局物を言うのは結果のみでございます。 ◆ クトゥルフ神話TRPG「奇想翻弄」◆ 冬、寒々しい気層の奥底で疲れ果てたように眠る季節。肌を刺す冷たい空気はそれそのものだけで人の体力を奪っていく。 千冬は特別な遠出をして電車に乗ろうとしていた。夜風に晒されるホームは底冷えする寒さだったが、目の前で開いた鉄扉に入りさえすれば温かな空気が頬に吹き寄せるだろう。 乗り込んだ車両は、夜遅くに乗る電車にしてはそれなりに空いていた。 丁度一番角の席に探索者は座る。途端、全身にずっしりと圧し掛かる重さ。気付かぬうちに随分疲れていたらしい。眠る意図はなかったとしても、自然と瞼は辺りの光を拒むように閉ざされてしまう。
暗闇の中で、脊髄が何かにじっくりと引き摺られるような感覚を覚えた。体の芯から疲れ果てている時の眠りの落ち方によく似ている。しかし自分はそんなに体力を使っていただろうか。それほど特別なことをした一日では、なかった、はずだが。
違和感を訴える思考とは裏腹に、ずるずると意識は奥へ奥へとずり落ちる。チカチカと目の奥が瞬いたような気がして、そのまま千冬は深い眠りへと落ちていった。
……………… ………… …… 目を覚ますと、丁度運転手がよく知る駅名を口にしている所だった。 そうだ。ここで降りると、改札があそこにあって、駅前にはあの店があって。脳裏に浮かぶ明白なイメージ。しかしそこで貴方は異常に気が付く。 自分は、どの駅で降りようとしていた? 寝起きにしても、それを思い出せないほど耄碌してはいない。聞き覚えのある駅名、頭に残る駅の構造、どの記憶も正常に脳から取り出せる。しかし思い出せない。自分の家の最寄り駅も、乗り換える駅も、自分が今どこへどうやって向かおうとしているのかも。それはあまりに異質な欠落だった。 異常な現象に正気度を失う。 ★正気度喪失1/1d3
染谷千冬 : 1d100<=48 【SAN値チェック】 (1D100<=48) > 96 > 失敗 染谷千冬 : 1d3 (1D3) > 2 [ 染谷千冬 ] SAN : 48 → 46 染谷千冬 : (……思い出せない。家も、目的地も……)
呆然としているうちに電車は減速し、見覚えのある駅に停車する。このまま乗り続けて見ず知らずの遠い町に飛ばされるよりは、まだここで降りた方が幾分かマシだろう。 ◆ 電車を降りますか?もう少し乗りますか?
染谷千冬 : (……見覚えのある駅だ。……このまま乗っていたら、降りようと思っていた駅からどんどん遠のく可能性がある。ここでいったん降りよう) 電車を降ります。
プラットホームに降りると、頬を冷たい風が滑っていった。吐いた息は瞬く間に白く染まり、緩やかに消えていく。手元の時計はやはり夜分遅くを示していた。 あなたはこのまま駅を出ることもできるし、手元で何かできることがないか考えることもできる。
染谷千冬 : (……住所。財布の中に免許証がある。住所が書いてるはずだ……) 鞄を漁って財布を取り出し、その中から免許証を見つけます。
あなたは免許証を取り出し、そこに書いてある文字列を確認する。住所が分かれば自ずとそこへどうやって行くかも分かるだろう。
しかしそんな希望はあえなく散ることになる。
文字が、分からない。 例えばそこにある数字が0であること、市、町、その他様々な文字が書いてあること、それは認識ができる。 しかしそれを纏まった内容として脳が認識してくれない。難解な外国語の本を読んでいるような感覚。 文字列があることは分かるのに、その内容を一切読み取ることができない。疲れ果てている時に文章を読むと、そんな風に文字が散逸して見えることがあるかもしれない。 しかしそれでは明らかにおかしい、何故なら住所以外の文字はいつも通り読めているからだ。
自分の脳が異常をきたしていることに対し正気度喪失0/1d2
染谷千冬 : 1d100<=46 【SAN値チェック】 (1D100<=46) > 64 > 失敗 染谷千冬 : 1d2 (1D2) > 2 [ 染谷千冬 ] SAN : 46 → 44 染谷千冬 : (……なんだ、これは) 染谷千冬 : (住所だけが認識できない。……また、何か変なことに巻き込まれているのか……?) 染谷千冬 : (……これからどうするか、この原因は何か、どうすれば解決できるのかを考えよう。
……俺がどこに行こうと思っていたか記憶にないが、少し遠いところに遊びに行った帰りだったはずだ。状況を考えると家に帰ろうとしていたと考えるのが自然。……家に関することが欠け落ちている……?
家が、何らかの鍵にはなっているはずだ。ひとまず、目的地にするならそこか……) 染谷千冬 : (……千秋、千秋に電話しよう) スマホで千秋に電話をかけます。
あなたは千秋に電話をかけようとした。 スマホを取り出してタップするが、先程まで起動していたはずの端末が全く反応しない。 充電が切れているようだ。 ここから情報を得ることはできないだろう。
染谷千冬 : (……タイミングの悪い) 染谷千冬 : (とりあえずここを動こう。公衆電話で千秋に連絡を……) 駅の公衆電話に向かいます。
駅の公衆電話につきました。
染谷千冬 : お金を入れて、千秋にかけます。
しばらくして、千秋が出ます。 「もしもし?」
染谷千冬 : 「千冬だ。今から時間あるか。〇×駅まで迎えに来てほしい……」
「……?……千冬か……?」 あなたの声が届いていないのでしょうか。 千秋が困ったような声で言います。
染谷千冬 : 「……俺の声が聞こえないのか?」
「……今話してる?」 続けて言います。
染谷千冬 : (1D100<=55) > 80 > 失敗
「……おーい、聞こえるか。……電波悪いのかな……」
染谷千冬 : (……) 染谷千冬 : (……これは公衆電話だ。電波が悪いといった電話側の理由は考えづらいだろう。連絡が妨害されている……?) 染谷千冬 : (……いったん切ろう) 電話を切ります。
切りました。
染谷千冬 : (……スマホが点かないのは充電以外の可能性のほうが高そうだ。でも、念のため試しておくか……) コンビニでモバイルバッテリーを買おうと、コンビニを探します。
コンビニに向かおうとしましたが、閉まっているようです。 あなたは困惑しながらも駅を出る。階段を下りて改札を出れば見知った町並みが出迎えるだろう。閉店の札を出した店が並び、街灯ばかりが道を照らす夜道。それでもどこへ行くべきかは分からない。 足を踏み出す先すら見失ったあなたに、ふと背後から声がかけられた。
「お困りのようですね」 振り返る。誰も、いない。そもそも人がほとんどいない。探索者の背後にいたのは、ただ。声のする方、視線を落とした先。
「どうです?猫の手くらいは貸せますよ」
夜闇に溶け込みそうなほど黒い、一匹の猫であった。 喋る猫を目撃したあなたは、正気度喪失0/1
染谷千冬 : 1d100<=44 【SAN値チェック】 (1D100<=44) > 44 > 成功 染谷千冬 : (……猫の手、か。連絡を取る手段なら他にもある。通行人のスマホを借りて、電話するだとかSMSを送るだとか……。しかし、それではこの状況を根本から解決できるかどうかわからない。この異常事態に現れたこの猫は、今の事象に何か関係していると思っていいだろう。敵か味方かわからないが、話にのるしかないか……) 染谷千冬 : 「……たしかに、猫の手も借りたいぐらいだ。どういう手伝いをしてもらえるんだ?」
「私は猫ですから住所などは言われてもわかりませんが……道中の話し相手になれますよ。人影も居ない中で一人は寂しいでしょう?」 「貴方は『帰巣本能』というものをご存知ですか?」 知識を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=55 【知識】 (1D100<=55) > 19 > 成功
以下の内容を知っていました。 帰巣本能。曰く、それは一部の動物に備わっているという「元々いた場所に帰る」能力である。視覚上の目印、地磁気の感知、天体観測、地形学的な記憶など動物によって様々な方法があると言われているが、その多くは未だ謎に包まれている不可思議な力だ。ともかく、一部の動物は本能を使って家に帰ることができるらしい。 その猫はくつくつと低く笑って、あなたに一歩歩み寄る。 「現生人類ホモ・サピエンスに帰巣本能があるのか……知性を使えないのであれば試してみませんか?」 「貴方だってヒト科ヒト属の動物でしょう。安全な居住地を求めて本能に頼るのはおかしなことじゃありません」 「直感に従って歩くんですよ。貴方の家がきちんと頭に焼き付いていれば、辿り着けるはずです。さて、遠くまで行きましょう」 猫は貴方の前へぴょんと飛び出し、歩き出すように促す。
染谷千冬 : (……この猫のせいか。『遠くまで行きましょう』? 少し引っかかるが……) 染谷千冬 : 「……わかった。じゃあ話し相手になってもらおうか」
あなたの回答に猫は嬉しそうにしっぽを揺らす。
街灯が照らす冬の町をあなたは歩き出した。 冷たい風は段々と肌に馴染んで、肩の強張りが抜け始めた頃だ。 電車に乗る前はそれなりに疲れていたが、夜風に押された足取りは思っていたより軽い。 しばらくは歩き続けられそうに思えた。 「貴方の家はどんな所ですか?場所が思い出せずとも、内装は思い出せるでしょう」 猫が尋ねる。
染谷千冬 : 「……一軒家。弟の千秋と一緒に住んでる。一階にはリビングや浴室、あと一室余った部屋がある。二階が俺と千秋の部屋だ」 染谷千冬 : 「俺の部屋はベッドと学習机、ラックぐらいの家具しか置いていない」
「家族と一緒に住んでいるんですねえ。ご家族は何歳ですか?何年くらい住んでる家でしょうか」
染谷千冬 : 「千秋は18歳、家に住んで10年ぐらいだ」
「長く住んでいるんですねえ。家具の色は?好きな色はありますか?」
染谷千冬 : 「明るい木製の家具だ。……それは家具の話か? だったらライトベージュの木材が好きだ。普通の好きな色は……水色」
「明るい綺麗な色がお好きなんですねえ。ご家族とは仲いいんですか?」
染谷千冬 : 「……そうなのか?」 染谷千冬 : 「千秋とは仲が良い」
アイデア振ってください!
染谷千冬 : CCB<=80 【アイデア】 (1D100<=80) > 91 > 失敗
「そうなんですねえ」 ふと、足が自然と左を向いた。 車に追い越されながら、千冬は十字路を左へ曲がる。辺りの光景を見て、大事なパーツがカチリと嵌ったように感じた。
同時に奇妙な寂寥感を覚える。脳から見えないものが剥離していった、ように感じた。 振り向いてもそこには何も落ちてなどいない。けれど今確かに、自分は何かを落としてしまった……気がする。 そういえば、さっきまで隣の猫と何を話していただろうか。自分にとって必要なものの話をしていた気がするが、話の内容がどうにも思い出せない。 POW*7を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=11*7 【POW × 7】 (1D100<=77) > 80 > 失敗
あなたは先程まで話していた内容とその時に考えていたことが全て思い出せなくなった。
「おや、どうしました?」
猫は穏やかな声でそう言う。
染谷千冬 : 「……俺は今、何を話していた?」
「あなたの家の話をしていましたよ」
染谷千冬 : 「もっと詳しく、俺は何と言っていた……」
「さあ。猫は脳が小さいゆえ、思い出せません」
染谷千冬 : 「……」 染谷千冬 : (この猫は……信用できない。でも、抵抗できない……おそらく俺の記憶に干渉できる、機嫌を損ねるようなことをしたらどうなるか……) 染谷千冬 : (……ち、あ…………、……? 俺は今何を考えていた……?) 染谷千冬 : (……)
「おや?どうしたんですか?顔を青くして」 「そういえば自己紹介がまだでしたね。あなたのお名前は?」
染谷千冬 : 「……染谷千冬」
「染谷千冬。いい名ですねえ。あなたによく似合っていますよ」 辺りの染み入るような冷たさに体が馴染んで、寒いと感じなくなってきた。 そろそろ指先が赤くなるほど冷えているだろう。 立ち並ぶ家々は残らずドアを閉め切っていて、取り付く島もない徒労感を残しては視界から外れていく。 「そういえば、貴方が以前住んでいた家はどんな場所だったんですか?」
染谷千冬 : 「ふつうのマンションだ」
「よく思い出してくださいよ。何か印象に残っているものや出来事はありませんか?」
染谷千冬 : 「幼かったからあまり記憶にない」
「誰かを招いたことは?どんな部屋があって、どんな場所で寝ていましたか?よく思い出してください」
染谷千冬 : 「招いたことはない。……俺は…………」 そんなわけがないのに、その部屋で一人だった記憶しかなくて恐怖し、黙り込みます。
「よぉく考えれば思い出せますよ。誰も招いたことがないんですか?」
染谷千冬 : 「ない。俺には友だちがいなかった」
「そうなんですねえ。一人で寂しくなかったですか?」
染谷千冬 : 「……寂しいと思った記憶はない……」
「貴方は一人でも大丈夫なんですねえ」
染谷千冬 : (本当に……? じゃあどうして、どうしてこんなに心に穴が開いているんだ……)
「ヒトは、一番『帰りたい』と願った時どこを思い浮かべるものなのでしょう」 「ヒトは己の意思で自分の家を選べる生物です。他にもそうした動物はいるかもしれませんが、『心が家だと思う場所』と『実際の居住地』が異なる場合があるのは感情や愛着を持つ生物の特徴です」 「貴方の『家』は一体どこなんでしょうね」 POW*6を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=11*6 【POW × 6】 (1D100<=66) > 37 > 成功
ふと、足が自然と右を向いた。歪んだ自分を映すミラーを横目に、探索者は突き当りを右へ曲がる。辺りの光景を見て、何かのパーツがカチリと嵌ったように感じた。
同時にまた奇妙な寂寥感を覚える。 脳から見えないものが剥離して、ぽたりと落ちていった。 振り向いてもそこには何もない。けれど今確かに、自分はまた何かを手放してしまった……気がする。 そういえば、さっきまで隣の猫と何を話していただろうか。重要なものの話をしていた気がするが、話の内容がどうにも思い出せない。 幸運/3を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=18 【幸運 / 3】 (1D100<=18) > 65 > 失敗
遠くの方に、懐かしさを覚える見知らぬ人影を捉えます。が、相手は千冬に気付くことなく足早に消えていきます。 「大分歩いてきましたね」 猫はやはり穏やかな声でそう言うだけだった。
染谷千冬 : 「……」
あなたは、自分が猫に語った内容やその時考えていたことを全て思い出せなくなりました。 後ろから大きな音を立てて、車が一台自分と猫を追い越していく。 夜道を彷徨い歩く自分は、傍からどんな風に見えるだろうか。まさかこれほど困った状況に陥っているとは到底予想できないだろう。 ひたひたと雨が足元を濡らすように、狂気はいつの間にか背後に迫っているものだ。今の自分はそれをよく理解している。不本意ながら、だが。 「人間が家に愛着を持つ理由とは何でしょうか。ただ眠って食事をして身支度をしてというだけでしたら、最低限の安全と快適性さえ維持していればどんな場所でもいいはずです」 「しかし人によっては、住む土地や建物自体に強い執着を持つのです」 「貴方はどうですか?自分の家に拘りや執着がありますか?」
染谷千冬 : 「家は好きだ」
「何故好きなのですか?」
染谷千冬 : 「家にいる時のゆったり流れる時間が好きだから」
「それは何故でしょう?何故ゆったり流れると思うのでしょうか?好きなものがそこにあるから?リラックスできるから?あなたの指す”家”はどこですか?」
染谷千冬 : 「……、わからない……」
「何故わからないのですか?深く考えてみてください」
染谷千冬 : 「……家の場所も、その中も、自分の部屋も、家族のことも、何も思い出せない。わからない……!」
「おやおや。前の家も、今の家も思い出せないなんて、なんとも不憫ですねえ」 POW*5を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=11*5 【POW × 5】 (1D100<=55) > 1 > 決定的成功/スペシャル
「おやおや、そんな怖い顔しないでくださいよ」 足はひたすら前へと進んでいった。どこかから強い風が吹きつける中、探索者は曲がり角を無視して直進する。 辺りの光景を見て、何かのパーツがカチリと嵌ったように感じた。 聞き耳/5を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=6 【聞き耳 / 5】 (1D100<=6) > 23 > 失敗
「──!」遠くで何か大きい音がした、ような気がする。
染谷千冬 : 大きい音がしたほうに目を向けます。
目星/5どうぞ!
染谷千冬 : CCB<=15 【目星 / 6】 (1D100<=15) > 16 > 失敗
音のした方に振り向きましたが、何も見えませんでした。 同時に奇妙な寂寥感を覚える。 脳から不可視の物体がまたひとつ剥がれ落ちて、風に乗って飛ばされていった。振り向いてもそこには何もない。けれど今確かに、自分は何かを失ってしまった気がする。 そういえば、さっきまで隣の猫と何を話していただろうか。重要なものの話をしていた気がするが、話の内容がどうにも思い出せない。 「そろそろ良い所まで歩いて来たんじゃないですか?」 先程から風が強い。 辺りの樹々を揺らした風は固い葉を引き千切っては撒き散らし、カラカラと無邪気で惨酷な音を奏でる。 上着の隙間からその冷たい息吹が入り込んできて、体がまた少し冷えた。 「ところで、随分と顔色が悪いですね。まだ歩けそうですか?大丈夫ですか?」
染谷千冬 : 「……帰る」
「ええ。今あなたは”帰る”ために歩いています。あなたの帰る場所はどこでしょうねえ」
染谷千冬 : 「……」
「精神的に喪ったものが大きいと体にもよくないそうですね。体と心は表裏一体、全く別物のようでその実解き難い結びつきがある」 「さて。ここまで歩いてきた貴方に一つ聞きたいことがあるのですが」 「家の価値とは何でしょうか」 「不動産としての金銭的なもの。立地に基づく利便性。あるいはそういった現実性から離れた、個人にとっての精神的価値。人によって価値を見出す観点は様々です」 「貴方にとって、自分の『家』はどんな価値のある場所ですか?」
染谷千冬 : 「……温かい場所だった、…………」
「温かい、ですか。どう温かいのですか?」
染谷千冬 : 「……」思い出せないため、黙ります。
「おやおや。思い出せないのですか?」 「では質問を変えましょう。貴方の『家』は、貴方が心の底から帰りたいと思える場所ですか?」
染谷千冬 : 「帰りたい」
「大事な場所なんですねえ」 POW*4を振ってください。
染谷千冬 : CCB<=11*4 【POW × 4】 (1D100<=44) > 35 > 成功
「……いやはや、感嘆しました」 「実験成功です。素晴らしい結果だ」 気付けば、貴方は『家』の前に立っていた。 猫はするりと貴方に歩み寄り、長い尻尾を足元へ巻き付ける。
途端、頭の中でパキンと鋭い音が鳴った。 硝子の蓋が割れ、中に押し込まれていた記憶が堰を切って溢れ出す。
そうだ、ここが貴方の家だ。 訳も分からず歩いたせいでかなり遠回りをしてしまったが、間違いなくここが貴方の自宅だ。 「記憶も戻しましたし、私はここで失礼します。後遺症などは残っていませんので、どうか恨まないでくださいね」 「この度は私の実験にご協力いただき誠にありがとうございました」 ざわり。 一陣の風が吹いて、猫の姿はそのまま掻き消えた。
貴方はそれに何を思うだろうか。
染谷千冬 : 「千秋……っ!!」 慌てて家に入って、千秋の姿を探します。
千秋の姿は見えません。
染谷千冬 : 鞄からスマホを探して電源を点けます。
電源は無事に付きました。 電源をつけると、千秋から鬼のようなLINEと電話が入っていました。それは直近まで続いているようです。
染谷千冬 : 千秋に電話をかけます。 染谷千秋 : 「千冬!今どこにいる、」慌てて電話に出ます。 染谷千秋 : 「さっき○×街で千冬を見た、今近くにいるんだろ?どこだ」
千秋は遠い街の場所を言います。それはあなたが先程まで猫と一緒に歩いていたはずの、家から遠く離れた場所です。
染谷千冬 : 「……今、家にいる」 染谷千冬 : 「心配かけた、ごめん」 染谷千秋 : 「……、また、何か変なのに巻き込まれたの」 染谷千冬 : 「……そうみたいだ」 染谷千秋 : 「……」走っていた千秋は静止したようです。 スマホの先で鳴っていた音が止みました。
スマホの先でがさごそと鳴っていた音が止みました。千秋は走るのをやめたようです。
染谷千秋 : 「……すぐ帰る。このまま繋いどいていいか」 染谷千冬 : 「ああ、繋いでいてくれ。……千秋の声が聞きたい」 染谷千秋 : 「……ああ。身体冷えてない?今日寒かっただろ。スマホ繋いだままで風呂入りな」 染谷千冬 : 「……いや、千秋が帰るまで待つ」 さっきまで立っていたのを、リビングのソファに腰掛けます。 染谷千秋 : 「そっか。わかった。なら、今日一緒に風呂はいるか~?」 染谷千冬 : 「……入る」 染谷千秋 : 「千冬と一緒に入るの久々だよな~。あ、銭湯いく?サウナでゆっくりするのもいいだろ。人もいるし」 染谷千冬 : 「いや、家がいい」 染谷千秋 : 「ん、わかった。前にもらったバスボム使ってみる?掃除面倒だから、って封印してたやつあったろ」 染谷千冬 : 「……今日はなくていい」 染谷千秋 : 「俺掃除するぜ~?」 染谷千冬 : 「いや……ないほうがいい。いつもの入浴剤にしよう」 染谷千秋 : 千冬の心境を千秋が察せるかアイデアロール! 染谷千秋 : CCB<=85 (1D100<=80) > 19 > 成功 染谷千秋 : 「わかった~。ご飯は食べた?」 染谷千冬 : 「……昼から食べてない」 染谷千秋 : 「じゃあお腹減ってるだろ。夕飯は……炒飯でいいか?」 染谷千冬 : 「……ああ、千秋のこだわり料理だな。楽しみだ」 染谷千秋 : 「お~。めっちゃ美味いの作るよ。……そういえばさ、バイト先の近くに新しい梟カフェできたんだよ、今度いかね~?」 染谷千冬 : 「行ったことないな。行きたい」 染谷千秋 : 「はは、千冬きっと気に入ると思うぜ」 染谷千秋 : 「あと5分ぐらいでつきそ~」 染谷千冬 : 「……待ってる」 染谷千秋 : 「お~」
しばらく他愛のない話をしていると、千秋が帰宅します。
染谷千秋 : 「ただいま」 染谷千冬 : 「千秋……!」 玄関から音が聞こえて、すぐに駆けつけました。 強く強く、抱きしめます。 染谷千秋 : 「ごめん、遅くなった」強く抱きしめ返します 染谷千秋 : 「……おかえり、千冬」一度キスしてから顔を覗き込み、千冬の頭を撫でます。 染谷千冬 : 千秋の肩に頭を乗せて凭れかかります。 染谷千秋 : 千冬の頭を何度も撫でます。 「疲れたろ?……こっち」千冬の手を引っ張ってソファに連れて行きます。 染谷千秋 : 真横に座らせて千冬の方に向き直り、千冬の顔を見ます。ぎゅっと抱きしめます。 染谷千冬 : 「……」 黙ったまま、背中に手を回して抱きしめ、千秋の人肌に安心します。 染谷千秋 : 何も言わずに背中を擦りながら頬をくっつけます。 染谷千秋 : 千冬の耳にキスしてからソファに押し倒し、そのまま抱きしめます。 染谷千秋 : 「あ」 染谷千秋 : 「手洗ってない」 染谷千冬 : 「……別にいい」 染谷千秋 : 笑ってそのまま抱きしめ続けます。千冬の様子に変化はありますか?
幸せそうです。
染谷千秋 : 「……って悪い、お腹空いたよな。今飯作るから……千冬も手伝ってよ」 染谷千冬 : 「……もう少しこのままがいい」 染谷千秋 : 「……わかった」 染谷千冬 : 「……ありがとう。……あ」 染谷千秋 : 「ん?」 染谷千冬 : 「千秋はお腹空いてないか」 染谷千秋 : 「ん~、少し。千冬が帰って安心したから、さっきよりは空いてる~」 染谷千冬 : 「……じゃあ、ご飯を作ろう。手伝う」 染谷千秋 : 「もう少しこのままがいいんだろ、遠慮すんな。今なら千秋君触り放題ですよ~?」 染谷千冬 : 「……」 黙って、千秋を抱きしめる手に少し力を入れます。 染谷千冬 : (……怖かった。勝手に記憶を奪われて、大事なこと……千秋のことを忘れて……。もし忘れたままだったら俺は俺を失くしていた……俺がどうしようもないところで、こんなことが起きるなんて……) 染谷千秋 : 「……」考え込む千冬を見つめます。 染谷千秋 : (寒い所でお腹減ってる状態で事件に巻き込まれたんだ。まずは身体だけでも回復させねーと……) 染谷千秋 : 「な、千冬。飯作ろうぜ~。腹減った」 染谷千冬 : 「……わかった。作ろう。……ありがとう」
あなた達は会話をしながらご飯を作りました。美味しい炒飯が食卓に並びます。 その後一緒にお風呂に入りました。温まり、強張った身体から幾分力が抜けるでしょう。
染谷千秋 : 千冬を連れて千冬の布団に入ります。 染谷千秋 : 「何があった。……言えそう?」千冬を壁側にして、横に並んでからその顔を見ます。 染谷千冬 : (……温かい。布団も、千秋も) 染谷千冬 : (……。どこまで、言うべきか……) 染谷千秋 : 「……俺に心配かけたくないのはわかるよ。気遣ってくれんのは嬉しいけどさ。できれば……、千冬が話せるなら、全部話してほしい」 染谷千冬 : (……千秋は、前に俺が千秋を庇ったことと、その時に何もできなかったことを嫌がっているようだった。……できれば伏せたかったが、これは……隠せないな。でも、どこまで言うか……。なるべく心配をかけさせたくない) 染谷千冬 : 「……住所が急にわからなくなって、千秋にも連絡ができなくなった。家に帰れなくなるところだった……」 染谷千冬 : 「……心配かけた。ごめん」 染谷千秋 : 千冬の身に何が起こったか察せれるかアイデアロール! 染谷千秋 : CCB<=85 (1D100<=85) > 12 > スペシャル 染谷千秋 : 「千冬が謝ることじゃない。謝んな。わからなくなったって……、記憶を操作された……、ってこと?」 染谷千冬 : 「……そうだな。記憶を操作された。住所の文字も認識できなくなった」 染谷千秋 : 「……、どこまで操作されたか、わかる?」 染谷千冬 : 「……住所だけじゃなくて、家の記憶も失っていった。その中で、帰巣本能を試された」 染谷千秋 : 「……なんだよ、それ」 染谷千秋 : (家の記憶を奪って帰巣本能を試す?……最悪行方不明になる可能性だってあったってことじゃねーか) 染谷千秋 : 「……他に操作された、ってわかることは?」 染谷千冬 : (……家の記憶と連絡手段を奪ったこととだけで、家に帰れなくなることの説明ができるだろうか。……でも、他の記憶を操作されたことを伝えたらより心配をかける可能性がある。……) 染谷千冬 : 「いや、ない。家の記憶だけを奪って、その状態で帰巣本能が機能するかを試すだけ実験だったんだろう。……失敗してたら、どうなっていたかわからないが。なんとか帰ってこれた」 染谷千秋 : 「……」千冬の頭を撫でます。 染谷千秋 : 「俺が呼んだ時、振り返っただろ。その後どうして歩いていったんだ。……なんで反応しなかった?」 染谷千秋 : 「記憶を操作されたんじゃないのか。住所と連絡手段だけ奪われたんなら、警察に行って名前を伝えることだってできたはずだ」 染谷千秋 : 「あてもなく歩き続けてたのはなんでなんだ。……何か隠してるだろ」 染谷千秋 : 「……違うかもしれないけど。もし、記憶を操作されたんだとしたら、何を覚えてて何を覚えてないか、記憶を確かめるべきだと思う。それはきっと、俺とじゃなきゃできないことだ。……違う?」 染谷千冬 : 「……何か聞こえた気がしたから振り返ったけど、何も見えなかった。……実験中だから、妨害されていたのかもしれないな」 染谷千冬 : 「警察に行くことができなかったのは、実験の首謀者が近くにいたからだ。見えていたかわからないが、黒猫がそうだった。その猫はこの足で歩いて家に帰ることを望んでいて、逆らうことは得策ではないと考えた」 染谷千冬 : (……この質問は罠だな。俺が他に操作された記憶がないか隠していることの確認だ。今記憶を確かめようとしたところで、本当に奪われた記憶があったら話しようもない。……この話は伏せたほうが、この実験の危険度は薄まるだろう) 染谷千冬 : 「……操作されたのは家の記憶だけだと思う。……他に何か記憶を失ってたとしたら、伝えようがないが」 染谷千秋 : 「……。……千冬、いつもと違う。すげー怖かったんだろ。……そんな俺に言いたくない?」 染谷千秋 : 「……これで聞くのは最後にする。……今後何かに巻き込まれた時のために知っておきたいんだ。仮に今役に立たないと思う情報でも、持っておいて損はない。それが何時どこで役に立つなんてわからないだろ。だから、知ってることを全て話してほしい」 染谷千冬 : (……それでも……これから役に立つかもしれない情報よりも、俺は千秋に無駄な心配をさせたくない。それを千秋がどれほど怖がっているか……前の時に、わかったから) 染谷千冬 : 「……もし実験に失敗していたら、どうなっていたかわからない。前の時と違って、今回は一人で巻き込まれたから、千秋に伝えようがなかった。首謀者を目の前にして、従うしかなくて……前の時以上に、自分が無力だってこと、思い知らされた。そうやって俺が抵抗できないまま、二度と千秋に会えなくなる可能性があったかと思うと……とても怖くなったんだ」 染谷千秋 : 「……、そっか」 染谷千秋 : 「……怖かったよな。思い出させるようなことしてごめん」千冬の頬に手をあてて額にキスをします。 染谷千冬 : 「いや、思い出すことには何も問題がない。気にしなくていい」
家に戻り、いつも通りの日常を過ごす。 貴方の身に起きていた異常現象はこうして訳の分からないまま終わりを迎えることになった。
奇想天外な物事は我々の頭上、足の下、あるいは通りの向こうの物陰に素知らぬふりで潜んでいる。今夜貴方を翻弄したのも、そうした出来事の断片だろう。 これは、あなたにとって至極当然に起こり得る日常である。 ◆ 奇想翻弄 ◆ シナリオクリアです!お疲れ様でした! エンドA「ただいま」
生還報酬: 正気度回復1d6 当シナリオにおいて思い出せなくなっていたこと、認識できなくなっていたこと、強迫観念は全て元通りになる。
染谷千冬 : 1d6 (1D6) > 6背景
ある日、とある一体のイスの偉大なる種族は考えた。 「地球の動物には帰巣本能なるものが宿っている種があるが、人間に帰巣本能はあるのだろうか?」 帰巣本能とは一部の動物に備わった「元々いた場所に帰る」能力である。視覚上の目印、地磁気の感知、天体観測、地形学的な記憶など様々な方法があると言われているが、その多くは未だ謎に包まれている不可思議な力だ。イスの偉大なる種族にとってもそれはやはり興味深い特性であった。色々と閃いたイス人は適当な人間をピックアップし実験対象とすることにした。 実験の手順は簡単だ。対象となる人間の「自宅」に関する記憶を一時的に奪う。記憶がなければ当然、本能に頼って帰る他ない。頼る知性がないのだから。そして彼らが記憶を失くした状態でどこに「帰って」いくのか観察する。家代わりの仮宿を探させないよう、猫の姿をとって話しかけながら。 しかし問題は人間という生物が生活の都合上済む場所を変えることがあるということだ。人間にもし帰巣本能があったとしたら、彼らはどこを「家」だと認識するのだろう?この実験は「人間に帰巣本能というものがあるのか」を実証する実験であると同時に「人間はどこを家だと認識するのか」という実験でもある。 探索者はシナリオ中、家に関する記憶を奪われながらPOWの倍数ロールを複数回振ることになる。成功すれば理性と意志力に基づいて現在の自宅へと進んでいくことができるが、失敗すれば「以前の家」……より若い頃に慣れ親しんでいた場所へと歩いて行ってしまう。そして全て失敗してしまった暁には、より根源的な場所へと帰っていってしまうだろう。即ち、生命の揺籃たる海へと。
これはただ、家に帰るためのシナリオである。